2026年7月12日(日)、日暮里駅から谷中エリア、上野エリアをめぐる「下町『乙(おつ)』なツアー」を実施しました。参加者は大宮国際中等教育学校2名、筑波大学附属坂戸高校12名の計14名で、高校生が主体となってツアーを運営しました。このうち5名がガイドとして活動しました。
当日は10時に日暮里駅に集合し、谷中の再生建築「HAGISO」や「TAYORI」を皮切りに、昼食や見学を挟みながら谷中銀座商店街や保護猫カフェ、寺社やギャラリー、東京藝術大学周辺を歩いて学びを深めました。高校生ガイドが「地形・防災」「再生建築」「食農連携」「動物愛護」「LGBTQ+」「アート」といった多様な視点から、現地の歴史や文化、社会課題とその解決のヒントを提示。上野公園でふりかえりを行い、16時30分に上野駅で解散しました。
目的・ねらい
関東大震災を乗り越えた粋なまち谷中地区や、芸術の拠点でアニメ『ブルーピリオド』の舞台でもある上野地区を、高校生自身がガイド役となって案内し、まち歩きを通して社会課題の構造とSDGs達成に向けた探究の視点を獲得することを目的としました。地形・防災や再生建築、食と地域、動物愛護、LGBTQ+、アートなどの多角的テーマを現地で照らし合わせ、「問いを立て、観察し、対話する」プロセスを体験的に学ぶねらいです。
当日の様子
朝、日暮里駅に集合したのち、まず再生建築の事例としてHAGISOとTAYORIを訪ね、街に残る建物の活用とコミュニティづくりの関係について高校生ガイドが解説しました。

写真1 出発直後・谷中の夕やけだんだんにて

写真2:HAGISOで高校生ガイドが説明
続いて、谷中銀座での買い食いや保護猫カフェでの見学を通じ、食のつながりや地域での動物愛護の取り組みについて考察。保護猫カフェ(参加者の記述にある「宿木カフェ」)では、スタッフの方から活動の説明を受け、参加者が熱心にメモを取りながら質問する場面が見られました。

写真3:保護猫カフェでにて
午後は、朝倉彫塑館や観音寺、長安寺、谷中堂、全生庵といった寺社・文化施設を巡り、震災と都市防災、寺院と地域コミュニティの関係に目を向けました。

写真4:寺社エリアでのまち歩き
さらに猫町ギャラリーやねんねこ家、東京藝術大学陳列館、「芸術の散歩道」を歩き、表現活動とまちの活性化、インクルーシブな街づくりの視点(LGBTQ+含む)について議論が深まりました。終盤は上野公園にて一日の振り返りを行い、各自の探究テーマや進路との接点を整理して解散しました。

写真5:上野公園で感想を発表
参加者・ガイドの感想
参加者からは「現地で社会課題を五感で感じる機会になった。普段の授業では得にくい実感が得られ、保護猫の取り組みについては、直接触れ合えなくても募金や署名などで支援したいという気持ちが芽生えた。」「他分野の話を聴き、自分の関心も共有できてよかった。一方で、言いたいことを絞って的確に伝える力の必要性を痛感し、今後の課題が明確になった。」「LGBTQ+の話題から、無意識のバイアスに気づくことの重要性を実感。何気ない一言が誰かを傷つけうることに気づき、日常の言葉遣いを見直したいと思った。」といった声が寄せられました。
また、ガイドからは「歴史や宗派などの基礎知識をどこから説明するか難しかった。自分の独自の視点と、ツアーで求められる応答性のバランスをどう取るかという学びを得た。」「ガイド役としてTNRや保護活動を事前に徹底的に調べて臨んだ。参加者が熱心にメモを取り納得する表情を見て、自分の説明への自信につながった。」といった声が寄せられました。
テーマ別の学び・活動内容
地形・防災
谷中が台地上にありながら「下町」と呼ばれてきた歴史的背景や、木造住宅密集地の課題に触れつつ、寺院空間が過去の震災時に果たした役割を手掛かりに、現代の都市防災に活かせる視点を検討しました。寺社を複数見学する中で、地域コミュニティの拠点としての機能や、防災・避難の観点からの利点・限界と課題を考える契機になりました。
再生建築
HAGISOやTAYORIなどを実地に見学し、古い建物を壊して新築するのではなく「直して使い続ける」価値を議論しました。参加者のリサーチクエスチョン回答では、リノベーションによって歴史・文化を未来につなげられること、環境負荷の低減や地域の居場所づくりへの波及効果が指摘されました。一方で、古い家屋に伴う不便さの認識や、地域住民にとっての「おしゃれ化」の受け止めの違いなど、多面的に考える必要性も示されました。
食農連携
谷中銀座での食体験を通し、「何を食べるか」だけでなく「誰と、どこで食べるか」が食の価値を変えるという視点を共有しました。地方の農産物を都市の古民家空間で提供するような「食のバトン」が、地域経済や人のつながりを豊かにする可能性について考えました。
動物愛護(保護猫)
保護猫カフェで、TNR(捕獲・不妊去勢・元の場所に戻す)や保護活動の意義について説明を受け、猫の数が適切に減っていくことを「ゴール」とする考え方を学びました。参加者の回答には、「猫の街」のアイデンティティを、実物の猫に依存せずアートやグッズへと転換しながら守る地域の工夫への理解が示されています。
LGBTQ+/自分らしさ
「自分らしさ」と「周囲の期待」のギャップに向き合うテーマとして、無意識のバイアスに気づく重要性が感想に多く表れました。属性で人を判断する一言が誰かを傷つけうることへの自覚から、日常のコミュニケーションを見直す視点が芽生えました。
地域アート
朝倉彫塑館や東京藝術大学周辺の「芸術の散歩道」を歩き、創作・発表の場が人を引き寄せ、街の活力や課題解決(空洞化の抑止など)にどうつながるかを考察しました。アートが地域の歴史や記憶を読み替え、来訪者や住民の対話を促す可能性に触れました。
まとめ
高校生が主体となって企画・運営・ガイドを担った本ツアーは、現地での観察と対話を通じて、社会課題を自分事として考える貴重な学びの場となりました。再生建築や動物愛護、インクルーシブなコミュニケーション、地域アートなど、多様なテーマが交差する谷中を歩くことで、参加者はそれぞれの探究テーマや進路へのヒントを得ています。アンケートや感想には、今後ガイドや企画、情報発信に挑戦したいという前向きな声も寄せられました。次回以降も、高校生が学びを社会にひらく取り組みとして継続的に発展させていきたいと考えます。


